朝6時に起きて、トニーの運転する警察のトラックに乗せてもらい、タリを出た。警察車両とはいっても、見た目は普通のトラックだった。僕が座っていた助手席の端にはライフルが立ててあった。道を進めていく途中、トニーは一度だけライフルを袂に置き、セーフティをはずして、すぐに撃てる様にしていた。「ここのあたりは危ないから」と話していた。


途中、メンディで、トニーに知り合いの家に寄ることになった。その家は他の家と同じように、ぐるぐると巻かれた鉄条網とフェンスで囲まれている。


その家には白人の大男が一人で住んでいた。ものすごく握力の強い男で、握手をした後、手がひりひりした。男はトニーとは仕事上の仲間であるようで、何かまじめそうな話をしている。彼らが話をしている間、僕は男の出してくれたチリビーンズ食べながら、一人で部屋の隅のテレビを眺めていた。ここにはオーストラリアの電波が入るらしく、テレビの広告に出てくる住所はすべてクイーンズランドだった。売地の広告がよく目についた。しばらくして、朝食の礼をしてから、男の家を出た。


マウントハーゲンに着くと、トニーは地元の警察へ案内してくれた。ハウスポロマンへの連絡も、トニーがしてくれ、宿の車が来るまで、警察で休ましてもらった。警察では、一人の警官が机にナイフを突き立てて、少年に対して事情徴収をしていた。ガランとした所に机が幾つも置いてあるその部屋は、なんだか職員室の様にも見える。


しばらくすると、宿の女将(アンナという名前だ)が迎えに来てくれた。トニーが「クンディアワに来ることがあったら、家に泊めてあげるから」と言ってくれ、ここまで送ってもらった礼を言い、別れた。


宿の戻る前に、街で客をトラックに乗せてから戻ることになり、空港へ向かった。途中、アンナが店に寄って、コーラとミートパイを僕に買ってきてくれた。ミートパイはまだ温かかった。僕が金を払おうとすると、「あはは、いいのよいいのよ」と言ってアンナは笑っていた。


空港へ客を迎えに行くと、誰かと思ったら、今朝までいっしょにいた、クレッグ達だった。カードのトラブルで、ウェウェックに飛べなかったそうだ。昨日お別れを言ったのに、また会ったのが、ちょっとおかしかった。


外の空気が気持ちよかったので、皆でトラックの荷台乗って宿への山道を登っていると、突然雨が降り出した。みな一目散にトラックの座席の方へ戻って行き、気が付くと、中は全部埋まってしまっていた。仕方が無いので、僕は荷台に残ったまま、宿の手伝いの女の子達と、ビニールシートを広げて皆の荷物が濡れないように包んでいた。女の子達は雨を特に気にする様子もなく、きゃっきゃっとはしゃいでいた。ひどい土砂降りと、ひどい揺れのせいで、荷台の端にしがみついていなくてはならない。宿へ着く間、何か歌を歌おうと思ったけれども、いい歌が思いつかなかった。