眼が覚めると、船はちょうどキンベの港に着く所だった。キンベはこれまで止まっていた小さな港とは違い大きな港だった。船が出るまで時間あったので、ピーターといっしょにあたりを歩いてまわった。あちこちでいろんな人と写真をとった。港の倉庫の前を通ると、リフトを運転していた男達に、「写真を撮ってくれよ」と頼まれ、カメラを向けると彼らは陽気にはしゃいでいた。日本語の船名を持ったタンカーが停泊していたので、日本人がいるかもと思い、足を乗り入れて船員に話しかけてみたけれども、彼らは韓国人だった。


一通りの積荷を降ろす作業を終え、また船は港を離れた。
船の中でじっとしていると、東洋人の乗客がめずらしいのか、すぐにみんなに囲まれる。

「ハイランドでは、どこの村を回ったんだい?」

「日本に帰ったらさ、金を送るから腕時計を送ってくれよ、カシオの奴」

「俺はラジオが欲しい」


一人の男が、ぼろぼろになった、ヤマハのキーボードのカタログを持っていた。


「俺はさ、このキーボードが欲しいんだ。いつか貯まったら、金を送るから、これを買って送り返してくれないか」


こんな船の中にまで、ずっと離さずそのカタログを持って来ているのだ。よっぽど欲しいのだろう。彼らが本当にそのキーボードやら腕時計を買えるだけの金を貯めることができて、僕に金を送ってくるのかどうかはわからない。でも僕は彼らの為に、自分の住所を何度も書いて、その紙切れを彼らに渡した。揺れる船の中でずっと住所を書いていたので、酔ってしまい、宿泊室に戻ってベットに横になっていた。今日は波のせいか、船酔いがひどかったので、今日はほどんどベットに横たわっていた気がする。ベットに横たわりながら、いろんな事を考えた。