今日はクレッグの意見で、アンブアロッジという宿に行ってみよう、ということになった。昼間中、そこへ向かうPMVを探し廻っていたのだけれども、車はなかなか見つからなかった。車が見つかるのを待っている間、僕は道の傍で、石を積み重ねて時間をつぶしていた。何個も石を積み重ねていると、それは石碑のような形になってくる。僕が手元にある石を、いろいろと丹念に選って作業をしていると、それを見た子供達が、自分の選んだ石を「これはどう?」「じゃあこれは?」といって、集めてくれるようになった。


結局アンブアロッジ行きの車は見つからず、あきらめて宿に帰ることにした。


クレッグ達と、明日からの行程をどうしようかという話になり、クレッグ達は飛行機で、マウントハーゲンを経由してウェウェックに向かうことする、と話していた。僕は空路を乗り継ぐだけの金もないので、彼らとは別れ、一人でマウントハーゲンに陸路で戻ることにした。


夕方、ベットでうとうとしていると、遠くから隊列の歌声がこっちへ近づいてくるのが聞こえてきた。すぐに「ああ、これは葬式の歌声なんだな」とわかった。事故で死んだ警官の葬式だ。見に行こうと思うのだけれども、昼間の太陽の下にずっといたせいか、眠さとけだるさのせいで、体がなかなか動かない。隊列が、頭の向こうをゆっくりと通り過ぎていくのが、ぼんやりとわかる。


歌声が遠く小さくなってしまう頃、眠さを振り切って、やっとベットから出た。隊列を追いかけていく。追いついてみると、それは女達だけの隊列だった。


しばらくすると彼女達は歩みを止め、空き地の隅の小高くなったところへ集まる。彼女達は、遠く、一つの方角へ向かって、歌声を続けていた。それは歌というよりも、ゆるやかな雄叫びのようにも聞こえる。幾重にも重なった彼女達の歌声は途切れることがなく、僕はしばらくの間、何をするともなく、ただその歌声を聞いていた。


夜はまた、キッチンで料理を作って食べた。食後にテーブルで話をしていると、トニーという名の警官と仲良くなることができた。彼は明日の早朝、クンディアワに向かう、とのことだったので、途中マウントハーゲンまで、乗せていってもらうことにした。


クレッグ達とは今日で最後になるので、皆で写真をとった。昨日と違い、今日は皆の機嫌もよかった。ミシェルの笑顔を初めてみた気がする。「カラーのフィルムはいらないから」といって、僕は白黒のフィルムを数本だけ残して、残りを全部彼女にあげた。実際、この国に来てから、僕はほとんど写真を撮っていなかった。