今日は、昨日ハンスに薦められたように、クレッグ達三人とタリへ向かうことにした。


ニューギニア高地には、ハイランド・ハイウェイという1本の道が、東西を貫くように走っている。ハイウェイといっても、途中からは舗装すらされていない只の道路で、タリはその終着地にあたる。ハイランドハイウェイは、よくラスカルに襲われるらしく、山科さんは、「PMVに散弾銃の跡がついてるの見たよ」と言って笑っていた。何かあった時の為に、僕は帰りのエアチケットとチェックを宿に預けておいた。この宿は気に入ったので、もう一度戻ってこようと思う。


街に降りると、タウンの広場が長距離PMVの乗り場になっていた。クレッグが何台かのPMVと交渉をして、値段の安い車を探していたけれども、どれも値段は変わらないようだった。


PMVの運転手は、車の座席が埋まるまで、行き先を窓から連呼しながら、そのぬかるんだ広場の中をゆっくりと廻っている。2、30分ほどすると座席がすべて埋まり、PMVはタリへ向けて走り出した。


マウントハーゲンを出てしばらくすると、道は悪くなり、舗装されていないその道をPMVは飛ばしていた。車窓の向こうには広大な土地と雲が広がり、ここが高地であることをよく示している。


途中メンディという街で、休憩を取ることになり、車は長い間停まっていた。休憩にしては長すぎるので、おかしいな、と思い尋ねてみると、「警察のエスコートを待っているんだよ」という返事が返ってきた。


しばらくして、パトカーに先導され、他の1台の車と供に、車はのろのろと走り出した。時折、運転手は車を止めて降り、向こうからやってきた車の運転手と、何やら情報を交換している。


しばらくすると、警察のエスコートも外れ、また元のスピードで走り出した。


メンディからの道は景色もあまり良くなく、空気が薄い為か、頭痛がしだした。眠ってしまえれば楽なのだろうけれども、振動が強烈すぎるので、眠ることができなかった。


結局眠ることはあきらめ、ずっと窓の外を眺めていた。車窓からは、その土地の人間達と何人もすれ違った。僕は、すれ違うほとんどの人間に向かって、小さく手を振っていた。彼らも、そのほとんどが、笑って手を振りかえしてくれていた。


でも僕は、道の傍にたたずむ人々や、森を眺めながら、ずっと自分のことについて、考えていたように思う。


タリへ近づいてくると、人々の服装が、Tシャツやズボンといった服装にまじり、その部族固有の葉で作った腰巻をつけている人物も見かけるようになる。このあたりの部族では、耳たぶに開けた穴を、木のかざりで大きくして広げるのが風習のようだ。老人の耳が、すでにその弾力を失い、ちぎれて半ば耳たぶを崩壊させてしまっているのも見える。


タリについた。


宿について、部屋で荷を降ろしていると、ミシェルが、車の中に小さなカバンを忘れて来たのに気付いた。すぐに探しに戻ったけれども、見つからなかった。カバンの中には、金が少しと、チェックとフィルムが入っていたらしい。フィルムを無くしたことで、彼女はとても落ち込んでいた。


部屋で休んだ後、夕食を買いに近くの食料品屋に行き、ペプシとパンを買った。帰る途中、挨拶をしてきた二人の女の子と、いっしょに歩いた。気が付くと、ひとりの女の子は、僕の背中を触っていた。僕は、財布か何かを獲られるのではないかと思い、身構えてしまったけれども、彼女にはどうもそんな様子はなかった。彼女は、単に僕の背中に触りたかっただけのようだった。


「あなたはキレイね」といって、宿につくまでのしばらくの間、彼女はゆっくりと僕の背中を撫でていた。


夜は、キッチンのテーブルで、宿に泊まっている人達と話をしていた。昨日、タリへ向かう途中の道で警官が一人、事故で死んだそうだ。確かにここへ来る途中の道は、ぬかるんでいて悪かったし、大きな落石の跡も見た。ひどい雨が降っていたようだ。事後処理の為にこの街にやってきた警官が、何人かこの宿に泊まっている。


今日は、随分と疲れているので、くつ下を洗って早く寝ようと思う。他の三人も疲れているようで、誰もしゃべらず、みな自分のベットでボゥっとしている。