昨日の晩は、僕が寝てしまうまで、ロバートが女とずっと話している声が聞こえた。


宿で、バイキングの朝食を取っていると、ピーターがやってきた。話をしていて、気が付くと、バイキングの料理をパクパクと食べている。ピーターは空港まで見送りにきてくれた。


マウントハーゲンという、ニューギニア高地の中心にあたる街へ向かう。飛行機は2、30分遅れで出た。


マウントハーゲンへ向かう便は、6、70人乗りのFOKKERで、客は10人ちょっとしか乗っていなかった。スチュワーデスは一通りの仕事を終えてしまうと、客から読み終わった新聞を借り、空いた席に座って足を組んで新聞を読んでいる。


1時間程度乗っていると、窓からマウントハーゲンの空港が見えた。わりと近くに見えるのに、ずいぶんと高度があるな、と思っていると、機体が急降下しだした。下へ向かうというより、ほとんど「落ちる」といったような感じだ。5分くらい、ひじ掛にしがみついていると、ようやく着陸した。


空港に着くと、予約をしておいたハウス・ポロマンの車が待っている、という手筈だったが、車は見当たらなかった。宿に電話をかけて問い合わせをしていると、すぐ側でジェット機がエンジンをまわし始める。エンジン音にかき消されて、向こうで何を話しているのか全くわからない。ジェット機が飛び去ってから、もう一度かけてみると、「しばらくそこで待ってみてくれ」とのことだった。


しばらく空港で時間をつぶしていると、やってきたバンの中から、自分の名前を呼ぶ声がした。バンのドアをガッと開けた。車内には、すでに先客が3人ほど---2人の白人の男と、1人の日系人の女の子---がいて、全員に握手し終わるとすぐにバンは走り始めた。宿は、山の方へ少し登ったところにあるようで、しばらくするとすぐに視界が広がる。ハイランドの雲は、明らかにこれまで見ていた雲と形が違うのがよくわかる。道は悪く、壁の手すりを持っていないとすぐに頭を打ちそうになる。20分ほど乗っていると、宿についた。


部屋は、雑魚寝のキャビンにすることにした。車の中で出会った3人も、同じ部屋に泊まっていた。二人の男は、テッドとクレッグという名のアメリカ人で、いかにもバックパッカーという身なりをしている。もう一人の女の子はミシェルという名で、日系ハワイ人の4世だった。クレッグのガールフレンドであるようだ。


宿には、日本人の海外青年協力隊の隊員が5人ほどいた。どうやらこの宿が研修施設も兼ねていて、ここでピジン語の研修を受けているらしい。研修は明日で終わりで、それからそれぞれの任地に派遣されるそうだ。


晩御飯を取った後、彼らの部屋に遊びに行ってみた。


「上の村でもらってきた」というハッパを吸っていて、みんな大分デキ上がっていた。明日の最終日に、ピジン語で日本の昔話を披露しなくてはならない、とのことで、みんなで何をするかを決めているところだった。


「三好さん、さるかに合戦って、話の中身覚えてます?」
「えと、カニってなんで死ぬんでしたっけ? モモ太郎とかメジャーなのじゃダメなんですか?」
「あーそれ前の代でやったらしいんだよね。まぁイザとなったら適当に話作ればいいかなぁ。」


と、テーブルに向かって、うんうん何かを考えている人もいれば、バタンと横になり、「うー」とうなっている人もいる。


山科さんという隊員が、これからポートモレスビーの外れにあるソゲリ、という村の高校に派遣されるそうで、もし近くまできたら遊びにおいで、と言ってくれた。


マウントハーゲンは、標高が1500mくらいあるので、夜はひんやりと冷え込んでくる。食堂にある暖炉の側で、ゆっくりしていると、ドイツ人のハンスという男と話すことができた。4、50代くらいのおじさんで、すいぶんと奥の方の村をめぐって帰ってきたところだそうだ。彼は、彼が途中で遭遇したという、部族間抗争の話を僕にしてくれた。こんな話だった。


とある部族の男が、別の部族の少年といっしょにいて、男が、その少年に煙草を吸わせてみた。すると、その少年は死んでしまった。少年の部族が男の属している部族に対して、補償として、金を2000キナと、豚を数匹要求した。(豚はここハイランドでは権力の象徴なのだそうだ。)それを拒否した為、部族間で抗争が起きた。部族間でいざこざが起きると、警察は村に火を放って焼いてしまうそうだ。


「明日、あのアメリカ人達がタリに向かうと言っていたから、君もいっしょについていくといい。」


と僕にすすめてくれた。


ここハイランドでは、夜は必ず霧か雨になるらしい。今日は霧雨が降っていて、星は全く見えない。