今日も10時頃にマイケルが来てくれることになってたが、例によってなかなか来ない。アロタウから来た、という少年の持っていたウォークマンをいっしょに聞かせてもらいながら待っていた。彼はそれを"Music Box"とよび大事そうにしている。


2時すぎ頃までまっていてもマイケルが来なかったので、あきらめて、一人で次に泊まることにしたグランビル・モテルという宿へ向かう。PMVにのっていると昨日みた丘がまた見えた。あの丘へは10番のPMVに乗ってケンモアシティーという場所のすぐ先で降りればいいらしい。途中でPMVがエンコしてしまったので、別のPMVに乗り換え、やっとモテルにつく。グランビルモテルはこぎれいな宿で、きちんとしたレストランもついている。


庭にジュースの自動販売機があり、「そういえばこの国に来てはじめて見たな…」と思い、ジュースを買った。缶のまわりにうすい何かが貼りついていたので、はがしてみたら干からびてぺしゃんこになったトカゲだった。ジュースはキリッと冷えていてうまかった。


部屋に荷物を下ろし、モテルのすぐ近くにあるマーケットに行ってみた。ビートルナッツが売っていたので試してみることにした。ビートルナッツというのは、ビワくらいの大きさの緑色の果実で、外皮をむくと中に白っぽい実が入っている。それを粉石灰といっしょにまぜて噛むと、化学反応を起こすのか、真っ赤になる。弱い覚醒作用があり、土地の人間がいたるところで、これを噛みながら、口にたまった真っ赤な唾液を道端にびゅっと吐き出している光景をよく見かける。そんなわけでこの国では、人間の通る道は道端が必ず赤茶色に染まっていて、慣れないとヘンな感じがする。ビートルナッツは街中で売っているのだけども、これまで一度も試していなかったので、試してみることにした。


売っている女の前で、しゃがみこんで食べ方を聞いていると、東洋人の少年がビートルナッツを試しているのが珍しいのか、あっという間に見物人に囲まれてしまった。新鮮そうな実を選び、口の中にいれて石灰を混ぜてみると強烈な苦味がする。グワッとなり「苦い」といって笑うと、周りのみんなも笑っていた。


マーケットの中をひとりで歩くと、不思議な感じがする。


夜ご飯はモテルのレストランで取ることにした。客は僕の他には2,3人しかおらず、ひっそりとしている。
食事を終えてからは、部屋で武田に手紙を書いていた。